「右脚で立つ瞬間」に表れていた、からだのサイン ― 70代女性の歩行分析より

当ラボでは、スマートフォンやカメラで撮影した歩行動画をAIが解析し、関節の動きを数値で「見える化」しています。今回は、右の股関節に痛みを抱える70代の女性の事例を、ご本人の同意のもと、ぼかしながらご紹介します。「歩き方を数字で見ると、こんなことまで分かるのか」と感じていただければ幸いです。

ご本人の状態

撮影いただいたのは、後ろから見た歩行の動画です。普段は右の股関節に痛みがありますが、転倒の経験はゼロ。ご本人としては「なんとなく歩きにくい」という程度の感覚でした。

ところが解析結果を見ると、ご本人も気づいていなかった「からだのクセ」が、はっきりと数字に表れていました。

見えてきた3つのサイン

歩くとき、人は右脚と左脚で交互に体を支えています。今回の分析では、右脚で体を支えている瞬間だけに問題が集中していることが分かりました。

① 右脚で立つと、骨盤がグラつく

片脚で立った瞬間に骨盤がどれくらい揺れるかを測ると、左脚支持のときが1.4度なのに対し、右脚支持のときは2.1度。およそ1.5倍揺れていました。

これは、骨盤を水平に保つ「中殿筋(ちゅうでんきん)」というお尻の横の筋肉が、右側で弱っているサインです。さらに、揺れを抑えようと上半身を右側へ傾ける動きも見られました。痛い脚をかばいながら、無意識にバランスを取ろうとしている状態です。

② 右ひざが内側にブレている

ひざの左右へのブレを測ると、左は0.9度とほぼまっすぐなのに対し、右は2.6度、内側に入る方向にブレていました。

股関節まわりの筋肉が弱ると、その下のひざが内側に「落ちる」ように動きがちです。今は痛みが股関節だけでも、この状態が続くと、将来ひざにも負担が及ぶ可能性があります。

③ 痛い脚で立つ時間を、無意識に短くしている

右脚で支えているときの歩幅は、左脚のときの約1.4倍に広がっていました。これは「痛い右脚で立っている時間をできるだけ短くしたい」という体の防御反応で、左脚を急いで前に出している状態です。専門的には「抗痛性(こうつうせい)歩行」と呼ばれます。

一見ささいに見えますが、右をかばう分だけ左の股関節やひざ、腰に余計な負担がかかり続けているということでもあります。

大切なのは「気づくこと」

注目していただきたいのは、これらすべてが転倒経験ゼロの方に表れていたという点です。痛みをかばう歩き方は、本人も気づかないうちに体の負担として積み重なっていきます。段差や方向転換の場面で、思わぬふらつきにつながることもあります。

逆に言えば、早めに気づければ、対策ができます。

おすすめした運動

今回の方には、弱っている右の中殿筋を目覚めさせる運動を中心にご提案しました。

横向きに寝て上の脚を持ち上げる運動(クラムシェル・サイドリフト)、仰向けでお尻を持ち上げるヒップリフト、そして鏡を見ながら骨盤が傾かないように確認する片脚立ち練習です。最後に、床のマーカーを使って「左右そろった歩幅」を取り戻す歩行練習を加えました。

いずれも痛みの出ない範囲で、週3〜5回・1回10〜15分から。無理は禁物です。

おわりに

「ただ歩いているだけ」の動画から、これだけ多くの情報が読み取れます。痛みのある方が「自分はどんなクセで歩いているのか」を知ることは、機能訓練の第一歩です。

気になる症状のある方は、まずは一度、ご自身の歩き方を「数字」で見てみませんか。

※本記事は実際の解析データをもとに、個人が特定されないよう加工して掲載しています。運動内容は一般的な目安であり、痛みが強い場合や持病のある方は、必ず医師・理学療法士にご相談ください。

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