「最近、歩くときにふらつくんです。特に、足を一歩前に出すときが難しくて」
デイサービスや通所リハビリの現場で、こうした相談を受けることは少なくありません。今回は、AI歩行分析ラボで実際に解析した一例をもとに、「ふらつき」という言葉の中身を、データがどこまで見えるようにしてくれるのかをご紹介します。
ご相談の内容
80代の男性。これといった大きな既往はありませんが、ご本人もご家族も「歩行時のふらつき」が気になっておられました。特徴的だったのは、次の2点です。
- 足を一歩前に出すときに、不安定さを感じることがある
- 手足におもり(重錘)をつけると、ふらつきが減るように感じる
転倒には至っていないものの、ヒヤッとする場面はほぼ毎日。歩くこと自体に少し怖さを感じはじめている、という段階でした。
「ふらつき」という主観的な訴えは、現場ではとてもよく聞きます。でも、その中身――どこが、どんなふうに揺れているのか――は、見ているだけではなかなか掴みきれません。そこで、後ろから撮影した数秒間の歩行動画をAI歩行分析にかけてみました。
AIが見つけた「揺れの不均衡」
スマートフォンで撮った歩行動画から、AIが姿勢の動きを数値化します。今回いちばん目を引いたのは、次の所見でした。
骨盤の揺れに対して、頭部の左右の揺れが不釣り合いに大きい
骨盤まわりの動揺は、年齢を考えればおおむね想定の範囲。ところが、頭の左右への揺れはそれよりはっきり大きく出ていました。
これは何を意味するのでしょうか。
足元から骨盤までは、ある程度ふんばって踏みとどまれている。けれども、その揺れを上半身まで一本の流れとして抑えきれず、頭や体の上のほうの動きで帳尻を合わせている――そんな姿が、データから浮かび上がってきます。
「足を一歩出すときが難しい」という訴えとも、きれいに重なります。片足で立つ瞬間に骨盤を支える力が一歩遅れ、その分を上半身の代償運動で補っている。歩隔(足の左右の幅)もやや広めで、狭く歩く余裕がなく、広めの足幅で安定を稼いでいる段階でした。
一方で、左右の足の支える時間の差はごくわずか。つまり「どちらか片側が悪い」という構造的な左右差ではなく、両側に共通した、支える力とタイミングの余裕のなさ――いわゆるフレイル(虚弱)に近い像として読むのが自然でした。
「おもりで楽になる」が教えてくれること
今回いちばん臨床的に興味深かったのは、ご本人の「手足におもりをつけるとふらつきが減る」という実感です。
加重でふらつきが軽くなる理由には、よく知られたものが2つあります。
- 感覚の入力が増える ―― おもりが加わると、関節や筋肉から脳へ届く「いま体がどう動いているか」の情報が増えます。加齢で鈍くなった感覚を、おもりが補ってくれるイメージです。
- 慣性で揺れがおさまる ―― 単純に手足が重くなることで、揺れの勢いそのものが抑えられます。
ご本人が「おもりで楽になる」とはっきり感じていること、そして頭部の揺れが骨盤より大きいというデータ。この2つを合わせると、感覚のフィードバックに頼って姿勢を立て直すタイプのふらつきである可能性が見えてきます。
ふらつきの正体が「筋力」なのか「感覚」なのか「タイミング」なのかで、リハビリの組み立ては変わります。「おもりで楽になる」という何気ない一言が、実は方向性を決める大きなヒントだったわけです。
データから導いた、トレーニングの方向性
この方の場合、こうした流れで運動メニューを組み立てていくことになります。
- 片足で支える瞬間の安定づくり ―― 手すりを使った横方向のステップ練習や、お尻の横の筋肉(中殿筋)へのアプローチ
- 感覚を補う練習 ―― 「おもりで楽になる」という所見をそのまま活かし、足首の軽い重錘を使った歩行練習や、足の裏への刺激
- 一歩目の準備動作 ―― 体重を支える足へ移す→反対の足を出す、という動きを分解して練習
- 環境の見直し ―― 屋内の手すり、屋外での杖の併用、夜間の動線の安全確保
ポイントは、これらが**「なんとなく良さそうだから」ではなく、データと本人の実感の両方から導かれている**ことです。
「ふらつき」を、言葉から数字へ
「ふらつく」「歩きにくい」という訴えは、現場のスタッフが日々受け止めているもの。その経験と勘は何より大切です。
AI歩行分析は、それを置き換えるものではありません。ベテランの目が捉えている違和感に、数字という共通言語を添えるもの――そう考えています。
数値になることで、ご本人やご家族に説明しやすくなり、リハビリの前後で変化を比べられ、スタッフ間でも見立てを共有しやすくなります。スマートフォンで数秒撮るだけ。特別な機材も、お手間もかかりません。
ふらつきや歩きにくさが気になる方がいらっしゃいましたら、AI歩行分析ラボにお気軽にご相談ください。
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